派遣切りされた職場での正しい挨拶の仕方について考える

10年以上も昔の話である。

誰もが知る、IT某大手企業の子会社に派遣で勤めていた時の話だ。

大手の子会社は危険がいっぱい

まだ当時はそんなに派遣の経験がなかったから、派遣と言えども、大手の子会社に仕事が決まって、これはもしかすると安泰かもしれない、頑張ればそのまま大手子会社に直雇用になったりするのかも、と在りもしない甘い夢を見ていたりした。

ところが、その派遣先で働き出して3か月がたった頃だった。

独自手順の多い専門的な仕事だったが、一通り手順を教わって、ウザい研修とも晴れてオサラバできて、さぁ、これからだな~、という頃合いだった。

なんということだろう、部門というか、子会社全体の閉鎖が決まったのだ。

元々、その子会社は親会社から切り離されてベンチャー的な事業をやっていたのだが、競合他社との競争に負けたのが原因である。

子会社が閉鎖しても正社員は本体に異動できるけど

摩訶不思議な仕組みだと思うけど、こういった場合、派遣社員は当然の如く派遣切りになる。

しかし、正社員は何もなかったかのように親会社に戻れるのだ。

上手く舵取りできなかったからと言って、責任を取らされて解雇になったという正社員は一人もいなかった。

ところが、派遣社員で解雇にならなかった人間は一人もいなかったのである。

大手企業に派遣で働く人は、子会社にしろ、本体側にしろ、事業の方向次第では決して安泰ではないということは噛み締めないとならない。

派遣切りされた時の正しい挨拶の仕方

最終日の夕方である。正社員の指示でPCは早めにシャットダウンした。

宅配ピザやアルコール飲料などがオフィスに用意されて、しみじみと自分たちの送別会が行われたのだ。

前述のとおり、派遣社員は一人残らず派遣切り。しかし、正社員は親会社のどこかの部署に異動である。

酒も進んでほろ酔いになった頃、派遣のメンバーらが一人一言ずつ挨拶をすることになった。

日本企業なので、こんな時も年功序列。派遣勤務が長い先輩たちから順番に挨拶をしていく。

長い人だと2年や3年近く働いている先輩もいる。派遣で2~3年働くというのは、正社員で言えば7~8年くらいに相当する。ベテランの領域だ。

先輩派遣A「皆さんのおかげで楽しく勤務できました。大変お世話になりました」

先輩派遣B「大好きな仕事だったので残念ですが、この仕事に出会えて本当によかったです」

先輩派遣C「この職場で学んだことは新しい職場でも生かしていきたいです。ありがとうございました」

・・・くっ、先輩ながらも、どいつもこいつも、問答無用に派遣切りされた人間であることを全く感じさせない極上の挨拶をしてやがる!

私も直前までは普通の挨拶をしようと思っていたが、話す内容を変えることにした。

私「お疲れ様です。私は、皆さんのおかげで、もう目の前が真っ暗で、今は何も考えられません・・・」

酒も入っていたし、随分前のことだから細かくは覚えていないが、本人の意向とは無関係に派遣切りされた人間の本心はこんなところのはずだ。

正社員の責任者の顔をチラッとみると、しきりに目をパチパチさせていて、なんか反応が面白かったことはよく覚えている。

派遣切りなど意にそぐわない退職で挨拶を着飾るのはやめよう

私が思うに、日本が諸外国とは比較にならないくらい派遣だらけの社会と化してしまっているのは、先輩たちの挨拶の例からもわかるように、自分たちの待遇や権利に異を唱える人間が少なくて、従順でよく訓練された国民性にあるように思う。

理不尽な理由により派遣だけ切られたら、外国ならば暴動が起きたり、人権問題が持ち上がったりすることであろう。

ところが、人権や権利意識が低いうえに、決まりに従うのが美徳と考える人間が多い日本では何も起こらない。

派遣切りされたのに感謝の言葉を述べる人間ばかりだったのは、派遣歴が浅かった当時としても大きな驚きだったことをよく覚えている。

それからも派遣切りによる退職の場合は、挨拶を依頼されても断るようにしている。挨拶をするに値しない職場という判断だからである。